成り上がりの切り札とも、破滅への輪舞曲(ロンド)ともなりうるハイリスク投資、それが「VIXショート投資」です。

※ETFでのVIXショート投資は困難になったので、CFD編を参照してください。
関連記事「成り上がりの切り札「VIXショート投資」について(CFD編)」

VIXショート投資は、VIX先物投資ファンドを信用売りするか、そのインバース系ファンドを買うことで行います。

日本市場のETF/ETNであれば、
「1552 – 国際のETF VIX短期先物指数」を空売りするか、
「2049 – NEXT NOTES S&P500 VIX インバースETN 」を購入することになります。

【2018/2/6追記】2049 VIXインバースETNは強制償還されました。1552も現在空売り禁止中です

では、これらは一体どんな投資なのでしょうか?
かなり複雑なので、まずはVIXから解説していきます。

VIXとは?

VIXとはVolatility IndeXの略で「恐怖指数」とも呼ばれます。
一般的に言うVIXは、アメリカの代表的な株価指数「S&P500指数」のヨーロピアンオプション価格から逆算されます。
S&P500オプション価格が割高で取引されるとVIXは高くなり、割安で取引されるとVIXは低くなります。

ではオプションとは何か?というと、主要なオプションである「ヨーロピアンプットオプション」の場合、“株価保険”に例えると分かりやすく、「保険料50ドルいただければ、満期日に株価が権利行使価格2500ドルより安くなった場合、それより安くなった分は私が全額補填しましょう!」という商品です。

この“株価保険”の保険料がオプション価格です。
「株価が急落しそうだ!資産を保護するために多少割高でも“株価保険”(オプション)が欲しい!」という人が増えるとオプション価格が上がり、VIXも上がります。
そう、株価下落の恐怖で“株価保険”にすがりつく度合をVIXは表すので「恐怖指数」と呼ばれるのです。

反対に「株価は安定しそうで保険金支払いもなさそうだから、“株価保険”(オプション)を他の人に売って保険料収入を得よう!」というオプション売りが優勢になるとオプション価格が下がり、VIXも下がります。

VIXは平時は10~20の間で推移しており、20を超えると悲観状態と言われます。
VIXの史上最高値は、リーマンショックから1か月以上経過した2008/10/24の89.53です。
この時は、破綻したリーマンだけでなく「保険大手のAIGも吹っ飛ぶぞー!」といった連鎖大型破たんの恐怖がありまして、こんな数字になったと思われます。

過去の主要な高値

  • 1990年8月23日 イラク軍クウェート侵攻…36.47
  • 1997年10月28日 アジア通貨危機…48.64
  • 1998年10月8日  ロシアデフォルト(LTCM破綻)…49.53
  • 2001年9月21日 アメリカ同時多発テロ…49.35
  • 2002年7月24日 エンロン不正会計事件…48.46
  • 2002年8月5日  ワールドコム破綻…45.21
  • 2003年3月12日 イラク戦争勃発…34.40
  • 2008年9月18日 リーマン・ブラザーズ破綻…42.16
  • 2008年10月24日 世界金融危機…89.53(史上最高値)
  • 2010年5月21日 ギリシャを筆頭とするPIIGSの国債懸念…48.20
  • 2011年8月9日 S&Pが米国債を格下げ…47.56
  • 2011年10月4日 ギリシャ国債のデフォルト危機…46.88
  • 2015年8月24日 中国経済失速懸念…53.29
  • 2018年2月6日 米雇用統計での賃金上昇をきっかけとした長期金利上昇、VIXショック「変動幅は過去最大規模」…50.3

過去の主要な低値

  • 1993年12月27日… 8.89
  • 2006年11月22日 …9.81
  • 2007年1月24日 … 9.87
  • 2014年7月 3日 …10.28
  • 2017年7月26日 …8.84
  • 2017年11月3日 …8.99
  • 2017年11月24日 …8.56(史上最低値)
  • 2018年1月4日 …8.92

VIX算出の補足

ヨーロピアンオプションの価格は、以下の要素をブラックショールズ方程式の解析解に代入して計算されます。

①原資産価格(S&P500指数の現在価格)
②権利行使価格
③無リスク金利
④満期までの残存期間
⑤ボラティリティ

上記5つのうち、①~④と計算結果であるオプション価格は相場で取引されてる数字がありますので、これらをブラックショールズの方程式の解析解の式に代入して、唯一観測できない「⑤ボラティリティ」を逆算します。このように計算されたボラティリティはインプライドボラティリティと呼ばれ、これがVIXの算出に使われます。
(ボラティリティには、他にも過去の原資産の変動実績から計算するヒストリカルボラティリティもあります)

ブラックショールズの仮定では、株価はブラウン運動に従い、その変動率は正規分布に従うとしており、正規分布のパラメータσである標準偏差σがボラティリティの理論上の立ち位置です。
実際の株価は、ブラウン運動という自然界のランダムウォークには従わないことがわかっており、実はモデルのズレの部分を全てインプライドボラティリティが背負いこみます。
そのため、危機発生時ほど株価はブラウン運動とは乖離した動きをするため、極端にVIXが跳ね上がる結果となります。

VIX先物とは?

VIX指数の先物取引です。満期日にいくらでVIXを買う・売るといった取り決めをする取引で毎月満期があります。
シカゴオプション取引所(CBOE)に上場し、取引されています。

VIX先物には債券のイールドカーブと同じようにVIX先物も期間構造がみられます。
2017/5/12現在のVIXの期間構造を見てみましょう。
今はかなりVIXが低く落ち込んでいる状態です。

長い満期のVIX先物の値は、株価暴落による急上昇(ジャンプ)を確率的に織り込みつつ短期の値動きにはあまりつられないため、15-20に収束します。
そのため、現在はVIX現物の値が低いので右肩上がりですが、VIX現物が40などに急上昇した場合は右肩下がりのグラフになります。

余談ですが、このような長期平均への回帰がある原資産には、金利の期間構造モデル(VasicekやCIRなど)でモデリングするとフィットしそうです。
今度、期間構造モデルを使ったフィッティングと投資戦略も研究してみたいと思います。

VIX先物投資ファンドとは?

VIX先物指数に連動するファンドです。ただ単にVIX先物を買い持ちしているだけではありません。
VIX先物の満期までの期間は、毎日1日ずつ減っていき、満期が到来すると清算されてポジションが消えてしまいます。
そこでVIX先物に投資するファンドは、常に加重平均した満期までの期間が一定になるように毎営業日、期近のVIX先物を売却し、期先のVIX先物を購入するロールオーバーをします。この取引手法をコンスタントマチュリティ(CM)と言います。

このロールオーバーがVIX先物投資ファンドの肝です。
VIX短期先物ファンドですと、5月12日現在の場合、毎日少しずつVIX5月物を売って、VIX6月物を買い直しして、加重平均した期間が1か月になるように調整します。
2017/5/12の値を使うと、VIX5月物を11.225で売って、VIX6月物を12.425で買い直すので、このような取引を1か月続けると10%以上ファンド価格は減価します。

このような状態をコンタンゴ、逆に期近より期先の方が安い状態をバックワーデーションと言います。
VIX先物は他の先物と比べて、コンタンゴが激しくなる傾向があり、それがVIXショート投資の収益の大きな源泉の一つとなるのです。

VIXショート投資とは?

VIX先物投資ファンドを空売りする投資もしくは、VIX先物投資ファンドと逆の値動きをするVIX先物インバースファンドを購入する投資です。

日本に上場されているETFの場合、

「1552 – 国際のETF VIX短期先物指数」を空売りするか、
「2049 – NEXT NOTES S&P500 VIX インバースETN 」を購入することになります。

【2018/2/6追記】2049 VIXインバースETNは強制償還されました。1552も現在空売り禁止中です

VIXショート投資の特徴としては、VIXが下がれば儲かるのはもちろん、VIXがコンタンゴのまま動かなくても儲かります。
VIXが上がらなければ負けないですし、上がっても放っておけば元の水準に回帰するのでやはり負けにくいです。

ただし、負ける時(危機発生時)は退場レベルのひどい負け方をする可能性があります。

「1552 – 国際のETF VIX短期先物指数」の空売りについて

「1552 – 国際のETF VIX短期先物指数」は、円換算したVIX短期先物指数(VXX)に連動します。
VIXはドル円と逆相関するため、VXXより実は少しマイルドな値動きになります。

制度信用銘柄ですので、基本的に制度信用売りをすることになります。
信用売りをする場合、年率1-2%の貸株料がかかりますがこれは些細なものです。

では、上場来の月次チャートを見てみましょう。

えげつない落ち方ですね・・・。2011年8月の米国債ショック(ギリシャショック再燃&米国債格下げ)で急上昇して以降は、ずんずん落ちてその後の値動きが見えません。月次平均リターンは-4.77%です。

では、毎月リバランスしながら空売りしたらどうなるでしょうか。
年率1.65%の貸株料を払うとして逆日歩を考慮しないと、毎月リバランスすると以下のようになります。

2011年8月の米国債ショックや2015年8月のチャイナショックで手痛いダメージを負っています。
大事なのは2016年2月からのパフォーマンスで月平均11.71%の利益をたたき出し、4倍以上になっています。
こんなにパフォーマンスが良いのはVIX現物が安定時に15を下回り、強いコンタンゴ状態が長く続いているからです。

何もイベントがない状態でVIXが15を下回っていれば、VIXショート投資はコンタンゴの力も合わさって大きく儲かります。
つい最近では、VIXが歴史的な低水準になりました。

1552の価格下落の激しさの割に儲からないのは、月末にリバランスして負けた(VIXが上がった)時にポジションを小さくせざるを得ないからです。実際は負けてる時ほどポジションを維持した方が勝ちやすいので全力投資をせず、余力を持って行うべきです。
余力がない場合、ショックが大きくて1552の価格が前月の1.67倍以上になると、信用余力がなくなりその時点で終了です。
(実際、2011年の米国債ショックでかなり危ういところまできてます)

そのため、100%全力でのVIXショートは破滅を招きます。
ショックの規模が大きく、リーマンショックレベルとなれば、VIX先物投資ファンドの価格は3倍以上、つまり投資金額の2倍以上の含み損を抱えても強制決済されないくらいには余力が必要です。

では、30%くらいのレバレッジで投資するとどうでしょうか。

だいぶ心臓にやさしい値動きになりました。

さて、残念なことに1552の空売りにはとんでもない問題点があります。
逆日歩の存在です。逆日歩が発生するとETFの場合、1日最低5円/口の逆日歩が発生します。

ふつうのETFなら10000円くらいあるので問題ないのですが、このETFは2017/5/12時点で104円なのです。
ちょっと逆日歩が発生するだけで約5%の損失が発生してしまいます。

そのため、併合して単価を上げないと安心して売れない状況でもあります。

【追記】
2017/9/12に200倍に併合予定と発表されました!
関連記事「1552 VIX短期先物が2017年9月12日取引から200倍併合決定!」

三菱UFJ国際投信の公式ページ
http://www.am.mufg.jp/fund/160001.html

「2049 – NEXT NOTES S&P500 VIX インバースETN 」の購入について

「2049 – NEXT NOTES S&P500 VIX インバースETN 」は、円換算したVIX短期先物インバース指数(XIV)に連動します。
XIVはVXXと逆の値動きをする指数です。
XIVとドル円は相関するため、このETNはXIVより実は少し激しい値動きになります。

さて、チャートを見てみましょう。2015年に上場したばかりですが、おおよそ先ほどの1552を100%全力空売り(ショート)したときとだいたい同じ値動きをしています。

2016年7月のBREXITのような政治リスクの時に買っていたら4倍近く儲かってましたね(結果論)。
景気の地合いが良い時期の恐怖イベントで掴むと、恐怖が和らいだときに一気に儲かるETNです。
(日経レバなんて目じゃありません)

こちらのETNは逆日歩の心配はないですが、商いは1552より、やや薄めです。
日経ブルや日経ダブルインバースよりも刺激的で、有用な商品だと思うのですがねぇ。

VIXインバースETNの注意点としては、強制償還&上場廃止がありえることです。
これは、VIXインバースファンドが1日に80%以上下落した場合、強制償還されるため(目論見書より)です。

以前、VIXとVIX短期先物指数(VXX)の値動きを回帰分析したとき、VXXの変動率はVIX現物の変動率の約1/3と出たので、VIX現物が1日で240%上昇するとダメそうです。
今VIXが10くらいなので翌営業日に34に急上昇すると上場廃止というところでしょうか、あまり1日でそんなに動くことはなさそうではありますが・・・。

私が投信を作るなら、VIXショート(インバース)のレバレッジ30%の投信を作りますね。
残り70%は手堅い債券運用をする感じにすれば、1552の逆日歩や2049の強制償還に怯えることのない健全な投資商品になりますしね。

VIXショート投資の使い方のまとめ

過去のVIXの動きを見て気付いたと思います。
景気のサイクルにおけるVIXショート投資を使う局面としては、景気が拡大し、VIXが安定時に15を下回るときです。
そんな状況で、些細なネタでVIXが高くなった時がショートのタイミングなのです。

危機が発生してVIXが急上昇したタイミングでショートした方が儲かりそうですが、リーマンショックのように破たん直後は大したことなく、あとからあれよあれよと連鎖破たんの恐れが出てVIXが80を超えてしまい、「こんなに深刻になるとは!」となった場合、迂闊に手を出すと破産します。
噴火した火山に飛び込むと死ぬのです(落ちるナイフを掴むの逆イメージ)。

また、危機発生後の景気が不安定な局面では、VIXが高止まりし、コンタンゴの恩恵を得にくいこともあるため、VIXショートよりも日経平均やS&P500等の株価指数に連動するインデックスファンドを買うのが正解です。
十分に景気と株価が回復して、株価指数連動インデックスファンドの利益収穫が終わってから、十分な余力をもって始めるべきなのが、VIXショート投資なのです。

危機発生時:現金
景気最悪局面:株価指数連動インデックスの買い
景気回復局面:株価指数連動インデックスの買い(継続)
景気拡大局面:VIXショート     ←いまここ

また、VIXショート投資中に、金融危機が発生した場合は全力撤退が絶対です。
一方、VIXはS&P500の株価保険の保険料から計算されるので、アメリカの株価への直接の影響が限定的な他国の政治リスク・地政学的リスクは立ち向かっても良さそうです。
(ちょうど、2017年4月のフランス大統領選&北朝鮮問題の時は立ち向かって正解でした)

景気の拡大はいつまで続くかわからないものです。
景気が力強い時、VIXショート投資は用法用量に注意すれば、資産形成に大いに役に立つことでしょう。

【2018/2/6追記】
2049 VIXインバースETNは強制償還されました。1552も現在空売り禁止中です

※現在は証券口座を使ったVIXショート投資は難しくなっています。

それでは!